大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)1132号 判決

強盗罪は暴行又は脅迫を加へ他人の反抗を抑圧して他人の財物をその事実的支配を侵して不法に自己の支配内に移す時に成立する犯罪であることは所論の通りである。

而して、原裁判所が原判示第三(一)の事実関係の証拠として取調べた証拠、殊に被告人北川武夫の検察官検事に対する第二回供述調書、被告人北川邦穂の検察官検事に対する供述調書、大久保善一及臼井ミヨ子の司法警察員に対する各第一回供述調書の各記載の内容を仔細に検討し、更に当審に於ける証拠調の結果、殊に証人大久保善一臼井ミヨ子に対する各証人尋問調書の記載の内容を参酌して綜合考量すれば、被告人両名は、岡本京と共謀の上原判示第三(一)の日時場所に於て、同判示大久保善一及臼井ミヨ子の両名を同判示の如く脅迫してその反抗を抑圧し金品を強取せんとしたところ、同人等は之に畏怖して逸早く其の場を逃走したが、其の際大久保は所持していた皮製手袋一個を其の場に落したのを被告人等がその後之を発見して之を拾得したと謂うのであるから、被告人等が大久保の落した手袋の所持を取得した行為は被告人等強盗罪が未遂を以て終了した以後の行為であつて、被告人等の脅迫が効をしたに因るものではなく、勿論被告人等が強取したものと認めることは出来ない。従つて手袋の所持を取得した被告人等の行為は既遂として強盗罪を構成するものとなすことが出来ない。然るに原審が之を強盗罪の既遂と認めたのは判決に影響を及ぼすべき事実の誤認の違法があり、かつ之に基く法令違背があるのでこの論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

仍て各控訴趣意書記載の爾余の点に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条に則り原判決を破棄するが本件は原裁判所及当裁判所が取調べた証拠に依り当裁判所に於て直に判決するに適するものと認めるから同法第四百条但書に依り当裁判所に於て判決する。

当裁判所が認定した罪となるべき事実

原判決判示第三(一)を次の如く訂正する外は原判決事実摘示と同一であるから茲に之を引用する。

第三(一)被告人両名は岡本京と共謀の上路上に於て他人を脅迫して金員を強取せんことを企て昭和二十五年十一月下旬頃午後九時三十分頃偶々会話中の大久保善一及臼井ミヨ子の両名に対し被告人北川邦穂に於て「何をしている金を出せ金がなければオーパーを脱いで行け」等申向け被告人北川武夫に於て所携の短刀を突付けて脅追して金品を強取せんとしたが前記大久保等が逸早く逃走した為遂に其の目的を遂げず(以下省略)

(裁判長判事 小林登一 判事 栗田源蔵 判事 石田恵一)

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